作品全体の雰囲気のよさもあるけど、読者を次へと誘導するもっとも強い要素はとにかく謎だったと思う。
冒頭から口のなかに謎の人間がいたり、そもそも主人公が記憶喪失だったり、なくした記憶への重要度を高めるために不穏な夢の描写が挟まったり。
一つ一つの巻においてもとにかく引っ張る形が多く(……まさか)みたいな感じで説明までにラグが生じがち。
広告業界では好奇心の操作はとても注目を浴びており、「続きはウェブで!」や雑誌の袋とじ、答えは巻末などとにかく気になるという気持ちを作る。じらす。
やりすぎると不快感を感じさせ不評だったりするのだが、ドロヘドロのレビューをみる限りごり押しぎみにすら感じる謎作りは問題無さそうだった(これは主観的にもそう)
なぜ大丈夫かを考えてみると、恐らく小出しの謎は数話分は引っ張っていたけれど、比較的はやく解消していたからではないかと思う。
謎は好奇心を刺激するが、同時に解決まで読者にフラストレーションを感じさせる。しかし大量の謎をぶつけることで、作品を通しての謎が解けておらずとも一つ一つの解消感により問題が起きなかったのではないだろうか。(大謎も少しずつ解決に近づいている雰囲気はあった)
とにかく謎、謎、謎。わからないことだらけとなると流石に読者へのストレスがかかりすぎてよくなさそうに思っていたが意外とそんなこともないらしい。
次また創作をする機会を得られたらこの知見を活かしてみたいなと思った。